たるさんの部屋      「生徒という名の先生」
ーー「母親特集「笑顔」その1」ーー

高校時代の教え子「A子」との出会い。
A子が中学2年生。母親が4人の子どもを残してこの世を、、、、
それから年老いた祖母とともに幼い3人の弟の母親代わりをして家族を支える。
なのに不幸に不幸が重なり今度は父親の仕事中に大事故が襲い下半身不随になり
長期のリハビリ入院を余儀なくされる。

そんな中でもA子は学校生活を誠実に過ごし一度家へ帰宅して夕飯の用意をして
再びクラブ活動に参加しその上生徒会活動もこなしていた。

「A子」との交換ノートの一節です。
私はもっと年をとりたいです。
弟たちよりもっともっと年が離れていたら、、、とよく思います。
でもいくら努力しても母親にはなれないんです。姉でしか。それが悔しいです。
弟たちの前ではしんどそうな顔や暗そうにはしないと心がけています。
学校でいろいろあってもできるだけ笑顔でいます。
私が疲れた顔やイヤそうな顔をすれば弟たちは不安に感じるからです。
長男(B男)の高校の入学式と三男(D男)の入園式は同じ日でしたが両方
出てきましたよ。
日曜日は(D男)の運動会でした。(D男)の好きなエビフライを弁当に入れて
親子の演技も一緒にやりました。添い寝もします。
二男(C男)の野球部のユニホームに背番号を縫い付けました。
やっとレギュラーになりました。いつも2人の弟の弁当は入れます。

(B男)も(C男)も時間があれば(D男)と一緒にお風呂に入ってくれます。
できるだけ兄弟力を合わせておばあちゃんを助けます。
ところでたるさん。話は変わりますが私は私自身の中に「甘え」がなくなると
どれだけ「楽」になるかとよく思います。もっと強くなりたいんです。
高校から行った「勉強合宿」みんな「おもんない、しんどい、はよ帰りたい」と、
ずっと言ってました。
でも私はもっともっといたかった。弟やおばあちゃんには悪いけど、、、
勉強ができる、家事をしなくていい、ご飯の準備や献立を考えなくてすむ。
自分のことができる時間が貴重であり、ありがたかった。
早く30歳ぐらいになり看護婦として働きおとうさんのそばにいてやりたい。
そして弟たちの成長がみたい、だから時が早くすぎてほしい。
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*交換ノートの冒頭「A子」の言葉
たるさん。このノートには私の「ぐち」を書いてええやろうか、、、
親や家族の文句、「ぐち」言える(相手がある)って幸せやなぁ。
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「A子」との交換ノートは3冊続き、何度涙して読んだかわかりません。
当時私は30歳半ば教師力の乏しい頃。この交換ノートで何度も救われました。
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「A子」は私のクラスでも学年でもなく生徒会の美化部長として清掃点検し
得点化して優秀クラスを表彰をするというシステムを決めて実施した生徒。
完璧オール100点をめざした私はある日「96点」という点数に激怒して
納得できず生徒会室へ。
「A子」:「ゴミ箱にメモ用紙が丸めて捨ててあった」私:「自分で確認した
掃除後確認し生徒会が点検見回りの間に誰かが捨てた、、」とひつこく文句。
「A子」は泣きだしたが(大人げない)、そのあと「A子」:「ここまで
必死にいう先生おらんわ」と。そこから交流が生まれ交換ノートへと。

 
ーー「母親特集「笑顔」その2」ーー

少年や高校の朝練がない時や早く終わった時は天気が良ければ廊下の窓や
教室のカーテンも窓も開ける。教室は「きれいに」というのが私のポリシー。
黒板やごみ箱を確認し、後ろの黒板の落書き(ほとんどないが)を消して
掲示物は4スミきちんと止める。ようするに「きれいに」して生徒を迎える。

早く学校に着く生徒もいて一緒にきれいにする。それがクラスに広まっていく。
その中にいつも「笑顔」で迎えてくれる生徒〔A子〕がいた。
朝から気持ちのいい「笑顔」での挨拶。いつもどんな時もサイコーの「笑顔」

*卒業式〔A子〕からの手紙

私はたるさんがいうほどがんばっていなかったですよ。
でも「笑顔」でいることは少しは気をつけていました。
「笑顔」でいないと「大丈夫」と言っていないとまわりのみんなが心配するから。
私はみんなに心配されるとどこまでも甘えてしまうから。
でも、こうしてたるさんに手紙を書いてる時点で甘えてますが、、、

たるさんは悲しく辛いのに、、、と書いてくれたけど私よりずっと辛いのは
おかあさんだから。病気に負けないで笑顔で頑張ってるのはおかあさんだから。
おかあさんは本当は辛いはずなのに「ありがとう、おかあさんは幸せだよ」
暗くなるはずなのに「ありがとう、こうして〔A子〕や家族といて幸せだよ」

だからお葬式で別れる時も笑顔で送りました。
おかあさんの手を握り「おかあさん大丈夫!私は大丈夫だからね」と。
それは自分に言い聞かせていたかも知れません。
でもそれはそれでよかったと思っています。
だっておかあさんの子どもだしそうすることでおかあさんが喜んでくれるから。

でもうまくいきません。悲しいです、耐えても次々悲しい波がやってきます。
いつもいた場所におかあさんがいません。「ただいま、、、」と帰っても。
優しい妹が大ピンチです。いくら私ががんばっても妹の母親にはなれません。
悔しいですがおかあさんの存在は大きくおかあさんの代わりはできません。

たるさんはよく「〔A子〕らしさを大事にしろよ」と言ってくれたけど
「私らしさ」ってどういうことかまだわからないけどおかあさんと行った大好きな
場所で短大生活を過ごしてみます。
長々とすみません。返事はいいですよ。誰かに聞いてほしくて書いてみました。
3年間ほんとうにお世話になりました。
たるさんも病気なのだから無理をせず多くの生徒やみんなを悲しませないように。
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〔A子〕が朝早く来ていたのは遠い所から本数の少ないバス通学のため。
高校を選んだのはおかあさんが入院している病院が近いから。
行きも帰りも病院でおかあさんの看病し身の回りのお世話を。
家へ帰っては家事仕事を。でも毎日「笑顔」。
お通夜当日も目を真っ赤にしても「笑顔」(泣くだけ泣いたらいいのに)

おかあさんは〔A子〕に「笑顔」という遺産、財産、宝物を残しました。
〔A子〕の「笑顔」が今もよく出てきます。「ありがとう」と手を合わします。
〔A子〕は元気かな?きっとあの「笑顔」で周りを幸せにしていると思います。

 

ーー「母親特集「心配性」」ーー

〔A男〕の反省文

さきほどはすみませんでした。
たるさんは一言も僕に怒らずに(※)「言いたい」こと言って出たけど
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(※)私の言った「言いたい」こととは、、、
俺な(私)、つい最近おかん亡くしたんや(H16、冬)
俺のおかんは心配性でずっとイチイチ何か言ってくる、口うるさいし。
この年(50歳半ば)になっても〔素直〕になれずおかんに文句ばかり言うとった。
でもな、おかん亡くして、子どもの親になってわかったことがいっぱいある。
今朝もな、小学生がまだ暗い中、ランドセルの上にサッカーバッグ背負って
寒いのに白い息を手に吹きかけ6時半ごろ子どもが朝練に向かってるんや。
「たるさん、おはようございますー」と明るく元気な挨拶してくれる。
遅刻した子どもが走って来て「遅れてすみません」と実に〔素直〕に頭を下げる
そんな〔素直〕な子どもにグチグチ怒れると思うか?

朝練が終わって車に乗って行こうとしたら「たるさん、いってらっしゃーーぃ」
おかん亡くして落ち込んでいても子どもに元気と勇気をもらうわ。
俺が子ども、学生時代はこんなに〔素直〕じゃなかった。今は恥ずかしく思う。
〔素直〕になってたらどれでけ「楽」か。
「おかん、悪かった。ごめんな、ありがとうな」と今なら言えるわ。遅いけどな。
〔A男〕がなんで怒られたか知らんが、これがつい最近のたるさんの出来事や。
子どもから教えられるわ。ええ年してオヤジぶっても先生ぶってもあかんな。
書きたくなったら書いて、書きたくなかったらそのまま教室へ行けな。

ーーーーーーーーーーー〔A男〕の反省文(続き)ーーーーーーーーーーー

少し落ちついたので書きます。

最近、家でおかんにぐじぐじ文句を多く言われる。
心配してくれるのはわかるけど、、、毎日や。
昨日はオヤジに言いつけて、なにもわからないくせにオヤジにわめかれた。
あまり腹がたったのでオヤジに言い返したら。つかみ合いになった。
ムカついて家をとび出して友だちの所へ行って夜遅く帰った。

朝学校へ行こうとしたら、またおかんに見つかり、おかんは泣きながら
「おとうさんになんてことするん」「あんたを心配してるから言ってるのに」
僕は「もう、どうでもええ、、、」と思って家を出た。
行く途中、○○高校のやつと自転車でぶつかりそうになりメンチ切られた。
遅刻して学校に来たけど鑑札がついてない違う自転車乗ってきたから
違う置き場所に止めようとして見つかって怒られた。
ムカついてたから「素直」になれず謝れへんかったから怒られた。
遅刻届けもらいに職員室に行こうとしたらたるさんに会った。
今日帰っておかんになんとかがんばってあやまってみます。
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当日遠くから〔A〕の行動、叱られてる様子を見てて
「たぶん、こういうことかな?」と思って自分の最近の様子を話してみたら
ドン、ピシャ、あたってた(ビンゴ!)。
次の朝、校門当番で立っていたら〔A〕がやってきた。
いつもより明るく見えたけど、、、おかんに「あやまれたかな?」